厚労省・記者会見で質問に答える稲葉分会長(写真右)
労働組合インタビュー
国家公務員一般労働組合国立ハンセン病資料館分会
分会長 稲葉上道(いなば・たかみち)さん
・労働組合を作ろうと思ったきっかけは?
厚労省から日本財団が国立ハンセン病資料館(*以下、資料館)の管理運営を受託していた2018年頃、資料館内でパワハラやセクハラが横行しました。それ以前にも、パワハラに晒され退職した職員が複数いたのですが、日本財団は助けようともしませんでした。職務権限・職務分掌・昇給や昇進の基準といった、働くための基本的なルールも不明確なままでした。同時に、ハンセン病療養所入所者が生み出した資料館本来の目的が変質させられていきました。
こうした状態は組織の体質や職員のモラル欠如が原因だったので、個人的におかしな点を指摘しただけでは改善は叶わないと考え、2019年9月、国公一般国立ハンセン病資料館分会を結成しました。
・なぜ国公一般に相談したのですか?
資料館にはそれまで労働組合はありませんでした。そのため、資料館を生み出し、患者運動によって療養所の改善を実現してきた入所者の全国組織である全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)に相談しました。全療協は、療養所職員の労働組合(全医労)を紹介してくれました。しかし療養所職員ではなく、日本財団に雇用された学芸員である私たちは、全医労に加入することができませんでした。そこで国の施設で働く人が加入できる国公一般を紹介してもらい、相談に行きました。
・どのようにして分会ができたのでしょうか?
国公一般は個人で加入できる労働組合です。資料館の中で、同じように今の状態はおかしいと考えていた職員が3人いて、それぞれが国公一般に個人加入しました。同じ職場に3人組合員がいることになったので、それなら分会を作ってはどうかと国公一般から勧められて、国公一般国立ハンセン病資料館分会を結成しました。その後程なくして、全国のハンセン病療養所にある社会交流会館からも、同じく日本財団に雇用された職員の加入が続きました。
・労働争議に関する国交一般からのサポートは?
日本財団は分会を破壊するため、資料館の管理運営受託者を笹川保健財団に付け替えた機会に採用試験を行い、それを口実に組合員2名を雇い止めにしました。組合員の評価が低くなるよう画策し、他の学芸員たちがそれに同調した、仕組まれた採用試験でした。
2020年5月、国公一般は東京都労働委員会に不当解雇撤回の救済申し立てをしました。支援する会も結成され、ハンセン病療養所入所者をはじめ支援の輪が広がりました。すると今度は、資料館の学芸員らが、誹謗中傷や支援の切り崩し工作を始めました。日本財団が監視カメラで組合員を監視したり、組合員を窃盗犯に仕立て上げようと警察に被害届を出したり、組合員の情報を必要もなく警察に提供したりしていたこともわかりました。2022年5月、東京都労働委員会は、組合嫌悪を理由とした不当解雇であるとして、不当労働行為を認定し、笹川保健財団に対して不採用取消しを命じる命令を出しました。
しかし笹川保健財団はこの命令を無視し、中央労働委員会に再審査を申立てました。この間、委託元である厚労省は、受託者である笹川保健財団に法令違反を改めるよう求めることは一切せず、笹川保健財団の言い分に追随するだけでした。中央労働委員会でも笹川保健財団は、不当解雇かどうかとは無関係な組合員個人の誹謗中傷をくり返し主張しました。資料館にいる学芸員たちも、組合員を誹謗中傷する虚偽の陳述書を提出しました。労働争議は絶えず理不尽さに晒されながら進みました。
これに対し国公一般は、東京都労働委員会への救済申し立ての時点から、不当解雇撤回を求める署名と生活支援カンパへの協力を、上部団体である国公労連を通して全国に呼びかけてくれました。また笹川保健財団が事務所を構える日本財団ビルの前で、度々抗議活動を行ってくれました。
日本財団・笹川保健財団との団体交渉では、要求書の作り方や内容について指導してもらい、委員長をはじめ執行役員が毎回同席して、不当解雇撤回を迫り、残業代の違法な計算方法を改めさせるなど資料館内の労働環境改善を引き出してくれました。

抗議活動でスピーチする稲葉分会長。国公一般からは署名活動、カンパなど、さまざまな支援があったという
・勝利和解について
中央労働委員会は、東京都労働委員会命令を覆す可能性をにじませつつ、和解を勧めてきました。2023年9月、資料館の改善に資する約束を少しでも手に入れるため、笹川保健財団による遺憾の意の表明と和解金の支払い、資料館運営における設立経緯や入所者団体の意向尊重、ハラスメント対策の確立、意見聴取会の開催、組合活動を認めること等の条件と引き換えに、組合員2名の職場復帰をあきらめ、和解に応じました。こうして約3年半に及んだ不当解雇争議は終結しました。

勝利和解後に開かれた厚労省記者会見
・争議後の活動について
和解が成立した後、意見聴取会が開かれました。分会は、博物館施設としての資料館のあるべき姿から具体的な課題まで、13ページに渡る改善要望書を提出し、約1時間説明しました。
2025年1月には、笹川保健財団が雇用するハンセン病資料館等の全国の職員を対象に労働実態調査を行いました。期限付き雇用、賃金の低さ、退職金制度がないこと、ハラスメントの多さ、職務分掌や予算に起因する働きにくさなどの実態が明らかになり、多くの職員が改善を望んでいることが見えてきました。
こうした全国にある数々の課題を改善するため、分会は毎年笹川保健財団との団体交渉を続けています。これまでに、賃上げ、実質的な無期雇用、受託が終了しても今いる職員の雇用継続を次の受託者に働きかけること、給与表作成、外部のハラスメント相談窓口設置などが実現しました。
・これから相談したいと思っている人/組織へのアドバイスは?
労働関係の法律や会社の就業規則などに定められた働くための基本的なルールについて、ある程度は知っておくと良いです。働きにくい、納得できないと感じたときに、それがルール違反なのかどうか判断できるからです。また、日ごろから具体的な証拠を集めておくことも大切です。
団体交渉でも、労働委員会や裁判所での労働争議でも、言った言わない、やったやらないの事実認定を争う場面が多くあります。例えばハラスメントを受けて、それへの対処を雇用者に求めた場合、雇用者がハラスメント自体がなかったと主張してくることがよくあります。発言やできごとを時系列で記録したメモや録音があると、効果的な交渉方法を準備し、相手の虚偽の主張を打ち消すことができるので、解決する可能性が高まります。